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京都地方裁判所 昭和32年(行)17号 判決 1963年4月26日

原告 中井助三郎

被告 下京税務署長

訴訟代理人 杉内信義 外三名

主文

一、被告が原告に対し昭和三一年五月三一日でなした原告の昭和三〇年度分総所得金額を金五三八、九〇〇円とする更正処分中金五一七、一五九円をこえる部分を取消す。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は一〇分し、その一を被告の負担としその余を、原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

(一)  原告が昭和三一年三月一五日被告に対し昭和三〇年度総所得額を金二〇六、一〇〇円と申告したところ、被告は同年五月三一日本件更正処分をなしたこと、原告が右更正処分に対し原告主張の如き各不服申立手続を経ていること、及び原告の右年度の給与所得額が金一三〇、九五九円であることは当事者間で争いがない。

(二)  そこで争いのある原告の同年度の営業所得につき被告は、原告には商品出入帳、商品売上明細、一人別売上伝票があるのみで現金の出入を明確ならしめるに足る帳簿及び仕入帳の備付記帳がなく、且つ右備付帳簿の内容も営業成績を正確に記帳したものではなく、これをもつてしては到底適正な所得計算は出来ないので推計によつたものであると主張するところ、原告に金銭出納帳又はこれに準ずる日々の現金出納を明確ならしめる帳簿が存在しないことは当事者間で争いないが、原告備付の売上帳と題する帳簿(甲第二号証の一、二)は、ビール、酒、突き出し等各販売品目別に日々の売上数量及び売上合計金額を記載したものであり、経費帳(甲第三号証)は原告方営業に要した家賃光熱費、人件費等をその項目毎に毎月の出費額を記載したものであつて、右両帳簿が原告方営業実績を正確に記載した信用出来るものであるならば、金銭出納簿等面接に現金出入をあらわす帳簿がなくても営業所得計算をなすことは可能であつて、推計々算は許されないものといわなければならぬ。

(三)(原告備付帳簿の信用性について)

(1)  原告本人尋問の結果によれば、原告備付の売上帳(甲第二号証の一、二)は原告方女給荒川克子又は、原告が専務取締役をしている株式会社武内製作所の事務員が、一人別売上伝票にもとづき日々の販売品目別売上数量及びその売上合計金額を記入し、その結果を一週間毎に原告が原告方出入りの酒屋の「お通」(甲第一号証)と照合、点検し、その正確性をたしかめていたととが認められる。

しかしながら証人藤原鷙の証言によれば、下京税務署員藤原鷙が本件昭和三〇年度所得の調査のため原告方におもむき、右売上帳の原始資料たる一人別売り上げ伝票の提示を求めたのに対し、原告はその提示を拒絶したのみならず、右「お通と題する書面(甲第一号証)の内容についても原告は仕入先に対し領収金額を少く書いてくれと依頼したことがある事実が認められ、

(2)  原告備付の売上帳(甲第一号証)によれば昭和三〇年度のびんビールの売上数量は一八三九余本であるに対し(売上総額294,360円÷当事者間で争いないビール一本当り価格60円=1,839余本)成立につき争いなき甲第六号証及び原告提出の甲第一号証によれば、当該年度の消費本数は一、八二七本(期首在庫128本+仕入数1,872-期末在庫数173=1,827本)であつて、仕入消費した以上の売上があつたことになり、かかることは極めて不合理で、右売上帳の正確性に対し疑いを生ぜしめるものであり、

(3)  証人西角金兵衛の証言、及び同証言により真正に成立したものと認める乙第一、二号証によれば、原告と同じ一杯横町において飲屋営業を行い青色申告納税者である訴外伊智地喜四郎、同渡辺友義の昭和三〇年度における営業実績と、原告主張の備付帳簿(甲第二の一、二及び第三号証)に基く営業実績を比較すると次表の如くになる

(但し単位は円)

<表 省略>

(原告方二畳座敷を椅子二脚に換算した。原告は原告方二畳敷座敷は営業用に使用していない旨主張するが、証人藤原鷙、同山本守の各証言及び右証人山本守の証書により真正に成立したものと認める乙第四号証によれば、遊興飲食税問題で府税事務所に交渉するに際し、同横町の同業者が会合して座敷は営業用に使用しないこと等申し合わせて誓約書(乙第四号証)を作成したが、原告は右申し合わせに反対して、右誓約書に承認印を押さず、依然営業用に使用していたことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は前掲証拠に照し措信しない。)又弁論の全趣旨から、伊智地について、長椅子二人掛用一脚は、椅子一・五脚に相当し、渡辺については、その年間営業日数は三五〇日であると認めた。)

右によれば原告備付帳簿に基く営業実績は、椅子一脚当り、女給一人当り、光熱費一〇〇円当り各収入金額は訴外伊智地、同渡辺のそれにくらべて半分又はそれ以下ということになるが、前掲証拠に、証人向畑勝の証言及び同証言により真正に成立したものと認める乙第五号証を綜合すると原告方は同横町でも最も来客数の多い活気のある店であって、夏期には生ビールを販売しているが、生ビールはその性質上樽を開ければその日の内に販売しつくしてしまわなければならぬものであつて、生ビールを販売するには月にびんビール30箱位の販売能力が必要であり、原告が生ビールを販売していること自体、生ビールを販売しておらない右伊智地、渡辺に劣らない営業成績を挙げていることを示しているものであつて、原告のそれが、右二者の半分以下の成績しか挙げていないことを表わす原告備付帳簿の内容の正確性に対し大なる疑いを生じ、到底そのまま信用出来ない。

よつて原告備付帳簿に基づいてはその所得を正確に算出することは不可能と認められるので、その算出を推計々算によることはその計算方法が合理的なものである限り、止むを得ないものとして許容されるものというべきである。

(四)  (推計々算)

被告は原告の所得につき、まず客一人当り平均売上金額(三〇〇円)に一日当り来客数(二二人)を乗じ、更に年間営業日数(三五〇日)を乗じて年間売上金額を算出し、次いで右年間売上金額に大阪国税局作成昭和三〇年商工庶業等所得標準率表の小料理業の標準所得率一〇〇分の三〇を適用して一般経費を算出し、右一般経費に原告主張の特別経費(雇人費、家賃、遊興飲食税)を加算した額を必要経費として前記年間売上金額から控徐し、原告の昭和三〇年度所得額を算出した旨主張するので右推計方法が合理的なものであるか否かにつき検討するに、

(1)  原告の年間営業日数が三五〇日、一人当り売上金額が三〇〇円程度であることは当事者間で争いなく、

(2)  証人西角金兵衛の証言及び右証言により真正に成立したものと認める乙第一、二号証によれば、原告方店舗と同じ一杯横町において同じく一杯飲屋営業を営み且その所得税につき青色申告納税者である訴外伊智地喜四郎、同渡辺友義はその営業成績を次のように述べていることが認められる。

<表 省略>

そこで右両名についての一日の来客数について考えると青色申告額であるため正確であると認める年間売上総額一、三九九、九四四円を、年間営業日数三五〇円で除して算出すれば一日の売上金額は約四、〇〇〇円となり、右金額を、両訴外人とも供述が一致するので信用出来るものと認める一人当り売上金額三〇〇円で除すれば、約一三・三名となるから、同人が一日来客数を一〇名ないし一三名とのべているけれども、平均来客数は一三名と認め、渡辺については、一日の平均売上金額四、一一〇〇円を同じく一人当り売上金額三〇〇円で除すれば、約一三・六名位となるので同人が供述している一三名ないし一四名と総合すれば、一三・五名とみるを相当とする。

よつて伊智地方二人掛長椅子一脚は丸椅子一・五脚に換算した上右両名につき夫々各椅子数で右認定一日当り来客数を除し、その結果を平均すれば椅子一脚当り一日の回転数は約二・一回転となる。(少数点二位以下切捨)

(13/6.5+13.5/6)÷2=2,125

(3)  そうして原告方の営業成績は右訴外人等のそれに比較して勝りこそすれ決して劣る状況でなかつたことは前記(三)において認定したとおりであるから、原告の当該年度売上金額を右訴外人等の平均営業成績に基き算出することは合理的なものとして許容さるべきである。

(4)  証人毛利政男の証言及び右証言により真正に成立したものと認める乙第三号証によれば商工庶業等所得標準率表は事業に関する業者の帳簿が正確なものかどうかの指針とし、又帳簿がないとき、ないしは記帳がなされていてもその正確性を措信し難いときに所得の推計々算に役立てる目的で、各国税局単位に管内の税務署から各業種別に定数の標本を無差別且つ普遍的に抽出させ、これら標本に数理統計学上の処理をなして作成されたものであつて、右表による所得率とは、売上金額より仕入原価を差引いた差益金額から更に事業に必要な一般経費(個々の事業によつて著しく異る人件費、地代、家賃の特別経費は除く)を控除した金額の売上金額に対する百分率であつて原告方営業の如き小料理業(普通)の所得率は三〇%であることが認められる。

ところで原告の年間営業所得を算出するにつき、年間売上金額に右認定過程を経て作成された商工庶業等所得標準率表による所得率を乗じて算出することは原告に特別の事情のない限り正当なものとして許容せらるべきであるが、これについて原告は、原告の妻が出産のため実際の経営に当れなくなくなり従業員に一切まかせていたために光熱費等の出費につき随分無駄が生じたと主張し、右原告の妻の出産と経営を従業員に任したことは原告本人の供述により認められ、この事実からすれば、その光熱費等の出費につき若干の増大を来したかも知れぬことは経験則上首肯し得ないものではないけれども、現実に右増大を来したこと及びその増大が右特別の事情として考慮しなければならぬ程度に達していたことについてはこれを認めるに足る証拠がないから被告が原告につき右所得率三〇%を適用したことは正当である。

(五)  原告の営業所得額

右推計方法により年間営業所得額を算定すると次の通りである。

(1)  年間売上金額金二、二〇五、〇〇〇円

原告方に椅子が八脚あつたことは当事者間で争いなく原告方二畳座敷が営業用として使用されていたことは前記(三)(3) 認定のとおりであつて二畳敷座敷は椅子二脚に換算するのを相当と認める。よつて売上金額は金二、二〇五、〇〇〇円となる。

(10(椅子数)×2.1(1脚当り1日回転数)×300(1人当り売上額)×350(年間開店日数))

(2)  必要経費 金一、八一八、八〇〇円

(イ)  一般経費 一、五四三、五〇〇円

(2,205,000(年間売上額)×(1-30/100))

(ロ)  特別経費 二七五、三〇〇円(この額について)は当事者間で争いがない

(内訳)雇人費  二三六、三〇〇円

家費    二四、〇〇〇円

遊興飲食税 一五、〇〇〇円

よって原告の年間営業所得は前記年間売上金額二、二〇五、〇〇〇円から必要経費一、八一八、八〇〇円を控除して金三八六、二〇〇円となる。

(六)  よつて原告の昭和三〇年度総所得額は右営業所得額に前記争いのない給与所得額一三〇、九五九円を加算すれば金五一七、一五九円となるから、被告が原告に対し昭和三一年五月三一日付でなした原告の昭和三〇年度総所得金額を金五三八、九〇〇円とする更正処分中、右認定金額を超える部分は違法として取消を免れず、原告その請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条、八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 竹内貞次 古田時博 大森政輔)

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